ささくれ備忘録

主に乙女ゲームの感想・考察を書いています。

クラブ・スーサイドというそれぞれの七日間

タイトルで格好つけたかったのでいつものように「〇〇(タイトル)ネタバレ無し総評」とかじゃないんですけど、結局のところはいつものようにとある乙女ゲームをプレイした感想です。

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先日全エンドを見まして、いやもう・・・・・・言葉に表せぬほど非常に良かった。良かったしある意味では悪かった。彼らがそれぞれ選び取る道のその先のこととか、終わった後もぐるぐると色々引きずって考えて苦しむ羽目になるので、爽やかな読後感を求める方にはあまりおすすめは出来ないのですけど(エンディング順によっては爽やかに終わらせることも可能ではあると思います)、それでもこのゲームを一人でも多くの方にやって頂きたいな、知る人が少しでも増えればいいなと思ってこれを書いています。

私が布教したところで微々たるものだと思いますし、そもそもゲーム自体が滅茶苦茶面白いので口コミで既に色々広まっているんですけど、それでも何かこのゲームに対して言葉を連ねない訳にはいかなかった。あと記憶の新しいうちに自分の感じたことを一言一句余すことなく残しておきたかった、というのもあります。このブログ、その為のものだし。備忘録だし。

一応布教も兼ねての感想なので、具体的なネタバレは控えるつもりですが些細なネタバレでも気になってしまう方は気を付けてください。

 「クラブ・スーサイド」との出会いはいつだったか。今年の春頃には既に気になっていたような・・・・・・Twitterでこういうゲーム作りますよ~的なのを見かけて、そのときは「私は■■を考えている」の部分がぼかされていて、ただアンチロマンスの乙女ゲームという情報だけがあったのですけど。段々と情報が公開されて、当初の予定から色々変更したりなんだり、ってのも全部追っていたので、このゲームがついに発売されるとなったときは感慨もひとしお、という感じでした。いや私はただのプレイヤーなんですが。でもそういう気持ちってあるよね。

体験版はすぐにやったし、発売日の翌々日くらいには購入もしていたんですけど、しかしなかなかすぐには手を出せず、全エンディングを見て感想を書くに至るのに一ヵ月以上要してしまいました。別の乙女ゲームも同時並行でやってたとか、私が疲れてた、というのも理由には含まれるんですが、一番の理由は「私のメンタルが大丈夫なときにやりたかった」からです。

この「クラブ・スーサイド」、タイトルからも分かりやすいように「スーサイド」、つまり「自殺」をテーマにした作品です。ゲームを始めるときに警告文みたいなのが出るんですが、よくあるホラゲーの警告文の比ではなくて。やったことはありませんが、「さよならを教えて」というゲームにもこんな警告文出てくるよな~~とか思いました。そんな訳で、私自身も自覚はしているのですが、辛いだとか悲しいだとか、結構引きずられがちなところがあるので、「このゲームをやるなら万全の状態で臨みたい」と間隔を空けたり、適度に休憩いれつつ何とか全エンディングを見た、という感じです。まあ最後の方普通にハイになってて一日一人ペースでしたが。明け方までゲームやるのは久しぶりだったので、終わった後にどっと疲れがきましたが満足感というのか、なんというのか。充足感がハンパなかったです。

このゲームを全く知らない方に向けて、公式のあらすじを引用しますが、

 

『卒業式も間近、春の風吹き始める七日間。
 少年達は自らの死を望む。』

 

人間関係の摩擦から逃げるように
気づけば不登校となっていたあなた。
久々に学校に来てみれば、ふと目についたのは
異質な部員募集ポスター。
その名も【クラブ・スーサイド(自殺同好会)】。

特に強い原因はないが、なんとなしに
「死にたい」と思っていたあなたは
興味半分本気半分でクラブを覗きに行ってしまう。

しかし、クラブに集まった五人の少年達の
“今から七日間で完全にこの世への未練を絶ち、自ら命を断つ”
という本気さに気圧され、
自殺することに恐怖を感じ、早くも
「生きたい」と思ってしまう。

が、今更本気で死を目指す少年達の前で
「やっぱり死にたく無いです」
などと言える立場も勇気もあるわけがなく……

胸に秘密を抱えながら、死にゆく少年達の想いと陰を追う
奇妙で悍ましい七日間が始まったのだった。

とまあ・・・・・・「クラブ・スーサイド」は大体こんな感じの話です。

自殺を本気で考えている少年たちを前にして、「私はやっぱり死にたくない!」と思ってしまう主人公、というのがかなり面白くて。しかも、自分は死なないけれども誰か一人の死というものに寄り添ってみたいとか考えてしまったり、乙女ゲームの主人公にありがちなただただ性格がいいだけの子ではないな、というのが好きです。恐怖心よりも何よりも、好奇心によって突き動かされる辺りこの子も只者ではないというか、ブッ飛んではいる。

普段商業の乙女ゲームしかやらないのでこれが同人乙女ゲームのデビューなんですが、正直下手な商業乙女ゲームよりもずっと面白かったです。同人だからこそここまで深く描ける題材ではあると思いますが、いつもやっている商業ゲームに負けず劣らずの出来で、大変素晴らしかった。声を当てている方々もフリーの声優さんらしく、私はそっち方面には詳しくないのですがプロと遜色ないレベルで驚きました。

システム

簡素なつくりですがゲームに必要な最低限のものはすべて搭載されています。一切の無駄を排除した感じのシンプルさ、嫌いじゃない。セーブデータは20個ありますが、私は最終的に登場人物一人につき2つにセーブを分け、合計で10個作ったのでちょっと多い、くらいかな。セーブを多くするとしても妥当な数。

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バックログで文章をある程度読み返すことが出来るし、オートモードが搭載されているのでやりやすいです。スキップの速さはそれなりかな。人によってはちょっと遅いと感じるかもしれません。

「クラブ・スーサイド」にはギャラリーモードが存在せず、自分がどのスチル・エンディングを回収したかなど見返すことが出来ないのですが、これはあえてそういう機能をつけなかったそうで。詳しい事情などはこちらで書かれているので気になった方はそっちを見て頂きたいんですけど、この「クラブ・スーサイド」においてはギャラリーモードが無いことが正しい、というか。そういう仕様も頷けます。

最近の乙女ゲームではギャラリー機能が搭載されていることが前提という感じですが、昔の乙女ゲームにはそんな機能ついてないし。割とレトロな乙女ゲームを好んでやる私からするとそこまで驚くことではないのですけど。ギャラリーモードはね、本当に見返したいと思ったときにいつでも見返せるからめちゃくちゃ便利で助かる部分もあるんですが、だからこそもう一度ゲームをやらなくなってしまうんですよね~~。一回回収しただけで終わっちゃうから。また一番最初からやり直そう、という気にはなかなかならない。なので、それらすべてを踏まえたうえで、私はレトロゲームの不便さをこそ愛しているんですが。「クラブ・スーサイド」の不便さも愛すしかなかったよね・・・・・・。それはそれとして、スチル埋めとかエンディング埋めの達成感もコンプリートする楽しさがあったりするんですけど。まあ、それぞれに良さはあるということで。

音楽

物語にそっと寄り添ってくれるようなピアノの音が優しくて、聴いていて心地いいです。終始BGMがある訳ではなくて、無音なときもあるんですけど、それ故ここぞというときに流れるBGMが良かった。個人的には、特定のエンディングで流れる曲のピアノアレンジ版が好きでしたね・・・・・・。

あとは、何より主題歌の曲。全エンディングをコンプリートするのであれば何度も聴くことになると思うんですけど、何回聴いても良い曲だな、と思います。主題歌聴いて刺さったならゲーム本編も刺さりまくるはずだから一度聴いて欲しい。

(※オープニング映像には一部ショッキングなスチルも含まれるので苦手な方は気を付けて下さい)


『クラブ・スーサイド』オープニングムービー

特定のエンディングに到達した際に、主題歌ではない別の曲が流れるんですが、それを初めて聴けたときは本当に嬉しくて。歌詞を見ながら改めて聴くと、ああやはりこれはこのエンディングでしか聴けない曲だな、と思ったりして。私は「クラブ・スーサイド」をBOOTHで購入したので、主題歌含む劇中歌3曲と壁紙がおまけでついてきました。元々は期間限定特典だったのですが、先日永続特典になったようで。主題歌のフルが聴きたい方はBOOTH版をおすすめします。

イラスト

まあ見て下されば一発で分かると思うんですけど、非常に絵が上手い。

絵のことは詳しくないですが、素人目から見ても上手いし、それぞれの人物の体格の違いだとか、描き分けもすごいです。眺めているだけでただただ溜め息の出る美しさ。乙女ゲームをやっていて、絵が、上手えな・・・・・・とかしみじみ思いながらやったことってあまり無いんですが、スチルがバン!と出る度に「は~~!上手えな~~!」という感じでした。画集とか出すなら言い値で買いたい。

ただひとつ、難点を挙げるのであれば、凄まじい画力なので、そういう・・・・・・シーンは特にダイレクトにキツかったです。個人的には右睡さんと舞渕さんのが目を背けたくなるくらい結構キたかな・・・・・・。更にそこにキャストさんの熱演ぶりも加わって、本当に痛そうで。それ以外のときは大体ご褒美、って感じに拝ませて貰いました。とある男の半裸はマジで芸術品かってくらいに美しかった。

登場人物

私があれこれ紹介するよりも簡潔な人物紹介が公式で見られるので、まずはそっちを見てください。

club-suicide.site

いずれ劣らぬ魅力的な人物たち。三者三様、十人十色。よくもまあこんなにも個性の違う陰キャが集まったものだな・・・・・・とか思いました。それぞれの思想や、「クラブ・スーサイド」に来た理由など、理解出来るものから理解出来ないものまで。プレイヤーによっては、理解出来る人と理解出来ない人が全然違うんじゃないかな。ちなみに私は絵馬くんの考え方が一番しっくりきました。学生時代の自分を思い出しても、彼の思想が一番近いかもしれない。反対に、全然理解出来ないと思ったのは舞渕さん。理解は出来るけど分かんねえな、となったのは枢姫色、かなあ。

主人公の新堂林檎(デフォルト名)ちゃんも、すごく素敵な女の子でした。私たちプレイヤーが彼らの死に寄り添うにあたって、林檎ちゃん以外の主人公では決して駄目だったと思います。林檎ちゃんだからこそ辿り着ける、それぞれの結末。彼らに最後まで付き合えるのは林檎ちゃんしかいない。文字通り、最期まで。

シナリオ

クラブ・スーサイドでの顔合わせ直後にそれぞれの√に分岐するので、共通パートがありません。「あの中から一人、誰かの自殺に寄り添ってみよう」という感じで気になった人の自殺を追い、自殺するまでの七日間を共に過ごすこととなります。

共通パートのない乙女ゲームって珍しいですが、私がやったことあるのだと他に「AMNESIA」とかもそうだったな~。

誰のどの√であっても、基本的には「未練を晴らす協力をする」という名目で行動を共にするんですけど、その関わり方が人によっては全然違うのが面白いです。林檎ちゃんがいなくとも成し遂げただろう人とか、林檎ちゃんがいなければ絶対に駄目だっただろう人の違いがすごい。

七日間を一緒に過ごすうちに、芽生え始める奇妙な友情のような、慕情のような、不思議な心持ち。「アンチロマンス」と銘打たれている為、恋愛関係に発展する、というよりは誰よりも近い位置で彼を見守る存在、って感じなので。一人を除いてそういった「乙女ゲーム的甘さ」というのはあまりないです。いやまあ・・・・・・私がやってきた乙女ゲームでも、割と「これ恋愛じゃねえよな」みたいなのはちょいちょいありましたし。大体何か世界の危機とか、戦場で芽生えるやつだったんで・・・・・・なあ、お前のことだぞ、柊。

そんな感じで乙女ゲームだからといって必ずしも恋愛しなくても良い、というのが許されている気になるというか、優しくて私は結構好きなんですけど、それを「アンチロマンスの乙女ゲームとして出してくれてすごく嬉しい。勿論恋愛要素があるのも好きだし求めてはいるんですけど、個人的にはそういう関係に至るまでの過程というか、信頼関係を築くことが重要なので。だから、「クラブ・スーサイド」の距離感は普段乙女ゲームをしない層の人でもやりやすいんじゃないかな、と思います。

肝心のシナリオの内容については実際にやって貰いたいので直接的な言及は控えますが、誰のどのシナリオも最高に心を抉ってきましたね~~。私は喰ヶ島くんと絵馬くんと右睡さんに泣かされました。シナリオ的な好みでは右睡さんが全体的に好きだったんですけど、好きなエンディングをひとつ挙げるなら喰ヶ島くんのエンド16かなあ。一番最初に辿り着いた生存エンドだったんですけど、全部のエンディングを見て改めて、「クラブ・スーサイド」を終わらせるなら個人的にはこれを最後に持ってきたい。結末としてとっても美しいなあと思ったのでこれが好きです。次点で舞渕さんのエンド20でもいいかな。卒業式の一週間前から始まった物語が、これで締めくくられるというのも綺麗な形ではあるので。実は私が一番最後に見たエンディングってこれなんですけど。

ちなみに私は喰ヶ島くん絵馬くん右睡さん枢姫色舞渕さんという順番に攻略しました。特に攻略制限とかもないので、好きな人から攻略して良いんじゃないかな。

あ、エンディングは全部で20あります。攻略対象が5人いるので、1人につき4つのエンディング。選択肢による内部パラ?での分岐結果と、最後の選択肢によってどの結末に辿り着くか左右されるみたいですね。今までやってきた乙女ゲームの中でも、そこそこのエンディング数なので充分楽しめました。

ネタバレしたくないので色々と伝えたくても伝えられない部分がいっぱいあるんですが、シナリオについて中身には言及せずに何か言うのであれば、文章がとても美しいというその一点に尽きます。乙女ゲームをするうえで重要なことって、主人公を好きになれるかとか、攻略対象が魅力的とか、まあ色々あるにはあるんですけど、そのひとつに文章が好きかどうか、も含まれると思うんですよね。好き、というよりは読みやすいかどうか、が正しいのかな。ノベルゲーとかは本当に、どうしても、文章の読みやすさでその作品にハマれるか否かが分かれてしまうので。どんなに面白い作品だとしても、文章が合わないと駄目なんですよ。

最後までストレスなく、どっぷりとハマることが出来るくらい読みやすい文体で、かつ表現とかも非常に美しくて。作中結構詩的というか、比喩表現みたいなのが多用はされるものの、鼻につく感じでもなく。最早文学作品を読んでいる感覚に近かったです。

そもそも、この「クラブ・スーサイド」の始まりが好きすぎて私の心を掴んで離さない。これ読んだ瞬間に最高のゲームであることが分かってしまったので・・・・・・何処まででもついていきます。

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総評

とてもセンシティブな題材ではありますが、だからこそ真剣に、真摯に向き合って作られた作品だと思うので、色んな方にやって欲しいです。過去に生きづらさを感じた方とか、今現在感じている方にも、辛さだけじゃなくてなんらかの救いがあるはず。私たちプレイヤーは林檎ちゃんとなって作中少年たちの死に寄り添っていく訳ですが、林檎ちゃんは私たちプレイヤーにもそっと寄り添ってくれるような存在なので、少年たちを救うはずが、の方が林檎ちゃんに救われていたような心境でした。

絵も、音楽も、シナリオも全て素晴らしくて、同人ゲームデビューがこれで良かったな~と思える程でした。あと、何度エンドロール見ても信じられないんですけど、絵・音楽・シナリオ全部一人の人がやってるって本当ですか・・・・・・?一部協力している方がいるとはいえ、上杉伶児さん本当に何者なんだろう。マルチな才能過ぎる。一人で絵馬くんと喰ヶ島くんやってる感じだ。というか実は、数年前にTwitterの方で自主制作でゲーム作ってる、っていうの見かけてから気になってた方だったので、今回「クラブ・スーサイド」で再び会えて嬉しい限りでした。自主制作の方も完成したらやりたいし、別で次回作があるのであればそっちもやってみたい。

こんなに最高のゲームが1000円で買えてしまっていいんだろうか。もっと金を払いたい、払わせてくれ~~となるんですけど、これ最初は200円で売る予定だったんですよ・・・・・・信じられます?意味が分からない。

ここまで見てくれて、どんなゲームか興味を抱いてくれた方には導入が見られる体験版をおすすめします。それぞれの人物の√の触りを見ることが出来ますよ。

celtia.booth.pm

体験版をやったうえで購入したい、もしくは体験版をすっ飛ばしてもうやりたいと思った方はこちらを。

 クラブ・スーサイド【がるまに特典付き】

「クラブ・スーサイド」はBOOTHとDLsiteの二箇所でダウンロード販売していて、それぞれ違う特典がついてきます。BOOTHでは主題歌含む歌唱曲3曲のフルと壁紙。DLsiteでは特典ミニボイスがついてくるみたいですね。私はBOOTHで購入しましたが、ミニボイスも気になるな~~。

現在出ているのはPC版だけですが、ブラウザ版の開発も進めているみたいなので、PCを持っていないという方はそちらを待ってもいいかもしれませんね。

それから、先日公式で発表されましたがブラウザ版から追加される人物がいるようで。追加される彼の物語とその結末が気になって仕方ない。

 

彼と過ごす七日間は一体どんなものになるんだろうな。

ブラウザ版、今からめちゃくちゃ楽しみだし副読本も気になっているのでまだまだクラスド熱は冷めやらぬ感じです。12月は色々忙しいし他にやることもあるので、出来たらなんですが時間があればネタバレ全開な個別感想も書きたいな~~と思っています。

 

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